朝日連峰は、よく「登山口までが本当に遠い」と言われます。近年は少しはよくなった登山口もありますが、公共交通機関もありませんし、まだまだ途中に未舗装区間もあったり、携帯電話の電波が入らなかったりと、十分アクセス道路が発達していないと言える(言われる)道が多いです。もちろん、朝日鉱泉登山口も①常設の公共交通機関無し、②途中に未舗装区間あり、③携帯電話の電波入らず、とその条件を大いに満たしています。確かに、安全面を考えれば携帯電話の電波が入った方が万一の時に便利だし、今ある未舗装部分が舗装されれば、少しは快適な道中になるしと思います。

また、近年非常に多くなっている局地的な大雨によって、この山奥の脆弱なアクセス道路は、たびたび土砂災害に見まわれたり、安全管理上閉鎖されたりということが起きています。インフラが整うことで防げる事も多いだけに、事あるごとに要望は出したりしますが、やはりそこは莫大な費用もかかる話ですので、これだけの山奥に本当に必要なのかという費用対効果の含めて考えなければならない部分でしょう。

しかし、悪い面ばかり見ていてはキリがありませんが、これだけ山奥で大変な道であることによって、来る人が限られ、そのおかげで自然、環境が守られている、ゴミを捨てていくような輩が少ない、やっとたどり着いた目の前に悠然とそびえる大朝日岳を見たり、新緑や紅葉の山を見たりしたときの感動が半端ない、下界の喧騒から離れ、非日常の自然とのひと時を満喫できるなどの良い面もあるのかなと思っています。




そして登山口までたどり着くことがなかなか大変なうえに、さらに主峰大朝日岳山頂までは、最低でも片道5時間、往復10時間ほどはかかり、標高差も1000m以上と登るのにも中々の難易度ですから、朝日連峰に登る人はしっかりとした登山経験、不便な山奥でも動じず山を楽しめる人などと淘汰されていきます。朝日連峰が原始の山の姿を残す貴重な山塊と言われる理由の1つがここにあるのではないかと思います。
そんな考えもあって、この秘境の朝日連峰のふもとで、小さいながらも朝日鉱泉ナチュラリストの家という山小屋を経営出来ているということを、我々家族が、もう少し楽しみたいと思っています。
父が亡くなってからのプレッシャーであったり、気候変動による猛暑や大雨、台風への不安など、気が休まらない部分はあります。また、他の登山道と比べられ、アクセス面の不便さや整備面など色々と指摘を受けることもあります。実際その通りな部分ももちろんあるのですが、あまり、そういった言葉や気候など外的な部分に過度に神経質になっていてもしょうがないと思うのです。父の代からの考えとやり方で維持、管理されてきたのが今の朝日鉱泉登山口の姿です。そして私はそれを学び、自分なりに解釈し、そしてそれを好んでいます。であれば、これからもこのスタイル、考え方を貫き通すべきではないかと思っています。


当たり前ですが、天気は自分ではどうすることもできません。道路は複雑な管理体系ということもありますが、ことあるごとに要望は出していますが(県知事に直接言ったこともあります)、それ以上はどうしようもありません。登山道についても、でき得る限りの整備はするように心がけていますし、チェックもしているつもりです。ただ、あくまでも山の中、森の中を人間は通らせてもらう、使わせてもらうという考えのもと、必要以上の手入れ、整備はこれまでも、これからもするつもりはありません。極力、人の手の入っていない原始の森、朝日連峰の自然を見てほしいと思っています。
近年は本当に技術の進歩が目覚ましく、スピーディですので、もしかしたら、大きな整備や工事など不要で、その技術を取り入れるだけで、長年悩んでいた問題が一瞬で解決してしまうなんてこともあるのではないかと期待しています(朝日鉱泉における衛星通信を使ったWi-Fi導入などはまさにその1つで、大革命でした)。そういったことにアンテナを張って、取り入れられるよう身軽にいたいとも思います。
朝日鉱泉が1年でも長く続く様に、「楽しく、賢く、ほどほどに」の精神で、朝日連峰に訪れる皆さんとの出会いを楽しませてもらいたいと思っています。