だいたいシーズンの終わりは、何かとバタバタと慌てて冬閉まいをして降りてくるという感じです。そしてそのまま長い冬に突入してしまいますので、その辺りの出来事は、どうしても忘れ去られてしまっているような気がします。新しい2025シーズンのことを考えていた時に、ふと昨シーズンの最後のお客さんとの出来事を思い出しました。
昨シーズンの一般の最後のお客さんは、関西地方の大学に携わる方でした。出身はインドということでしたが、非常に、本当に流暢な日本語で、何を話しても理解できる明晰な方でした。その方に言われたことで、私はハッとしました。その方は、自然保護と山岳観光の視点で各地を見て回っているということで、特に朝日連峰のブナ林を見たくて来たということでした。さすが色々な勉強をしていて、朝日連峰を取り巻く過去の歴史や自然保護の動き、中止となった山岳観光道路「大規模林道」のことなど、よく理解していました。

前泊して翌日山頂小屋に泊まり、再び戻ってくるというスケジュールだったので、時間もあるし、鳥原山コースから登り、御影森山コースで下ってくるルートをお勧めし、無事下山しました。下山した夜は2人きりだったため、ゆっくり話をしたのですが、彼が興奮気味に話してくれたのは、「御影森山コースのブナは本当に素晴らしい!これだけのレベルのブナの森が、開発を免れ、しかも祝瓶山方面まで広大に広がっているなんて。ぜひそちらにも行ってみたい。」と。そうやって褒められて悪い気はしないもので、「そうなんですよ。御影森山コースは行った人はたいてい喜んで、満足して帰ってくるんですが、距離が長いということもあってか、最近は行く人が本当に少なくなってしまって。最近の人は、よほど忙しいのか、少しでも短いルート楽なルートで、ピークハントしてあっという間に次の山に向かってしまいますね。半日で簡単に登れてしまう山なんて、ほとんど記憶に残らないでしょうね。」などと、つい愚痴のようなことまで言ってしまいました。

すると、さらに「そういう山の楽しみ方をする人はそういう人なんです。全国にたくさんいます。でも、国内、海外ふくめて、朝日鉱泉からのルートのような、本物の自然とじっくりと対峙することのできる貴重な登山道はなかなかありません。そしてそれを求めている人は必ずいます。あとはそういった層にどうやって訴えていくか、発信していくかじゃないですかね。幸い、これだけSNSが発達してきているのだから、それも可能だと思いますよ。」

目から鱗でした。実際、大朝日岳山頂からの御影森山コースは、平岩山付近のそこらじゅうの岩が立っているような奇形地や、御影森山までの縦走しているような雰囲気の稜線歩き、御影森山山頂からの抜群の眺め、御影森山の巨大なブナの林、上倉山にあるクロベ(ネズコ)の巨木など、見どころは非常にたくさんあります。しかし如何せん長い、人もあまり使わない、上倉山からの最後の下りはかなり急(朝日連峰一?)で気が抜けない…。など私の中でネガティブな部分のイメージが前面に出てしまい、イマイチお勧めできていませんでした。しかし彼はそのマイナスともとれる部分こそ、求める人はいて、またそうでなくてもこの御影森山コースはそれを補って余るほどの魅力があると言ってくれたのです。

考えてみれば、朝日鉱泉登山口からは、主峰大朝日岳へと続く3つものコースがあります。そしてどれ1つをとっても、他のコースとは違うそれぞれの長所短所があり、見どころ魅力があります。もっともっとそれらの違いを明示し、魅力を掘り起こして発信していこうと強く感じました。シーズン最後に非常に大事な視点をいただいたような気がしました。各コースの情報をパワーアップさせようと思います。
そういえば昔、父が書いた本の中で、少し過激なことをいっていました。「白神山地が世界遺産に登録されてから、マスコミの報道は、ブナの事になるといつも白神山地の話題になり、白神山地にしか良いブナの森はないように思っている人が増えてしまった。でも、昭和25年当時、日本の国立公園にもなれなかった白神山地と、磐梯朝日国立公園になった朝日連峰とでは、どうしても朝日連峰の方がすぐれた自然を持っているのではないだろうか。」どちらが良い悪いということではありませんが、朝日連峰のブナは立派で貴重であるということは胸を張って言ってよいのではないかと思います。